吹田市は昨年、開業から50年を超える北千里駅前の「dios(ディオス)北千里」(吹田市古江台4丁目)などを再開発し、2棟のタワーマンションなどを建設する可能性について公表しました。千里ニュータウンでは、千里中央だけにあるタワーマンションが北千里に2棟も建つという計画に対して一部では驚きや反発の声も聞こえてきますが、その詳細をご紹介します。
北千里の“タワマン計画”は、吹田市が2022年10月に公表した「(仮称)北千里駅前地区第一種市街地再開発事業 環境影響評価提案書」に記載されているものです。公表に引き続いて説明会などが開催されていますが、この記事ではまず当初の提案書の内容をご紹介します。
北千里駅前について
北千里駅前の再開発は、商業施設であるdios北千里の建て替えを駅前ロータリーの敷地も含めて行っていくことが検討されています。dios北千里は、イオン北千里店を含む駅西側の商業施設等のことで、千里ニュータウン開発の際「千里北地区センター」として建設されました。
千里ニュータウンは「駅前」といえる区画を「地区センター」として住宅地とは区別して整備した歴史があり、商業や公共サービスを提供するエリアとして整備されました。今回の計画は、この地区センターを含む駅前の敷地全体(一部除く)を再開発するものです。
地権者には、大阪府の外郭団体や、吹田市のほか、企業、個人も含まれます。
北千里駅周辺の航空写真
吹田市が公表した環境影響評価提案書について
吹田市が公表した「環境影響評価提案書」は、吹田市の条例に基づいて、作成・公表することになっているものです。大規模な建物建築などの開発を行う際、自然環境や住環境などへの影響を検討し、事前に公表しなければならないことになっています。
今回、公共性が高い場所において、土地の用途や利用規制などを行政が定めた「都市計画」を変更して実施することが想定されています。具体的には、ロータリー(道路)の位置が変わったり、建物の高さ制限を緩和したりといったものです。
そのため、地権者や民間業者などではなく、吹田市が主体となり、「環境影響評価」を行う必要があり、それがスタートしました。
公表された再開発計画について
公表された開発計画は、「環境への影響が最大となる概略の事業計画」です。冒頭に書いた通り、タワーマンション2棟が含まれていますが、「最大」で「概略」なので、決まったことではありません。
公式文書として最初に出されたのが「決まっていないが最大規模の開発」という進め方はやむを得ないのかもしれませんが、昨年開催された意見交換会では「初めて知った」「唐突すぎる」といった意見が多数出ています。
ただ、建物の建て替え費用を賄うため、マンションを建設・販売することが再開発では当たり前になっています。実際、近隣では千里中央、山田、南千里で再開発で駅直結といえるマンションが建てられていますし、千里丘駅の再開発でもタワーマンションが計画されています。さかのぼると、JR吹田駅南口の「吹田さんくす」を構成するイオン吹田店の上は集合住宅、北口にも北摂タワーマンションのはしりともいえる「メロード吹田」が建っています。
では、北千里駅前再開発についてご紹介していきます。まず、対象となるエリアは下図の塗りつぶしたエリアです。dios北千里と呼ばれているエリア全体、北千里地区公民館の旧建物と、駅ロータリーです。また、隣接道路も一部が含まれています。同じ区域でも、阪急北千里駅を含む阪急の敷地、2000年以降に建てられた北千里医療ビル、マンション「グランカサーレ北千里」は対象外です。

敷地面積は、35,010平方メートル。このうち駅前交通広場・道路等は、全体の約30%の10,380平方メートルです。
環境影響評価提案書に記載されている、再開発の土地利用計画は下図の通りです。

現状、敷地の中心部に位置しているロータリー(駅前交通広場)を北側に寄せ、まとまった敷地を確保します。北千里駅やまちなかリビングとつながる位置となる、敷地中央に商業・公益棟(図のオレンジ色)を建設します。この建物は地下1階、地上5階建てで、2棟に分かれており、駅側は階段状になっています。駅の目の前の部分は歩行者広場になります。「公益」のものとしては、コミュニティセンターと駐輪場が予定されています。
敷地南側に住宅・商業棟(地上36階建て)を設けます。高さ123メートルの2棟構成です。これが「2棟のタワーマンション」です。総戸数は約700戸と想定されています。住宅・商業棟には、通り抜けができる通路を設けます。
700戸というのは、北千里周辺に1つのマンションでは存在せず、駅東側で大規模再開発された「プレミスト北千里クラッシィ」(藤白台)全体でも539戸、国循跡地(藤白台)で進められている再開発ではマンション部分だけだと664戸(戸建てや老人ホームを含めた全体で800戸)であり、超大規模の開発と言えます。
大規模マンションを含む再開発の必要性
ここまで大規模な住宅を計画するのは、先に書いた通り、建て替えに関わる費用を捻出するためです。この計画の概算事業費は572億円。再開発に対する補助金が180億円(うち吹田市が90億円を負担)あり、マンション等の売却益として392億円が見込まれており、実質無償で建て替えることができます。
また、再開発で建設されるマンション規模として他と比べてみるとどうでしょうか。千里ニュータウンの先行例になる南千里駅前の再開発と千里中央のよみうり文化センターの再整備(SENRITO)、最近計画が具体化してきている千里丘を比べてみました。北千里の計画が無茶苦茶ということはありません。
北千里 | 南千里 | 千里丘 | SENRITO | |
---|---|---|---|---|
再開発面積 | 約3.5万㎡ | 約3.5万㎡? | 約1.5万㎡ | 約1.2万㎡ |
住宅敷地面積 | 約1万㎡ | 約1万㎡ | 約4.2千㎡ | 約3千㎡? |
住宅戸数 | 700戸 | 442戸 | 345戸 | 552戸 |
階数 | 36階 | 15階 | 35階 | 52階 |
北千里と南千里を比べると、地区センターと駅前バスロータリーに相当する面積は、どちらも約3.5万平方メートルで同じ。南千里では、2つのマンションが建設されましたが、その合計面積は約1万平方メートル。北千里の計画で、住宅・商業棟が建設される敷地面積と同じです。北千里の総戸数は約1.6倍になっています。

一方で、千里丘の計画は、敷地面積は北千里の4割ほど。そこに345戸のマンションが建設されます。北千里が700戸で、その半分の規模なので比率としては同じくらいと言えます。近年の再開発においては、この規模の住戸を設けて再開発費用をまかなうのが相場と言えるかもしれません。

また、千里中央のよみうり文化センターを建て替えて、SENRITOとなった開発は、読売新聞や関電不動産などの民間によるものですが、建設されたタワーマンションの階数は52階と北千里の計画の1.4倍。より少ない面積に大規模なマンションが建っています。

もし、700戸を必須とした場合、高さを低くするためには敷地の目いっぱいを使い建物を建てることになりますが、低層部が日照や視界を常に遮ってしまうことになります。高層化して、今回のように2棟に分けると隙間が生まれ、時間経過で太陽を遮る位置も変わるため、必ずしも悪いことではないと言われることもあります。建物のない平地を多く確保できることもあります。実際、南千里と比べて大きな歩行者広場が見込まれます。
とはいえ、メロード吹田に次ぐ階数の建物が北千里にできることを受け入れづらい方がいるのも事実。大規模マンションがつくられると、保育園や学校がパンクするという問題もあります。
まちなかリビング北千里の整備により、駅前区画に吹田市が関与する必要性が低くなっている中で、「最大」として公表・推進する規模は、もっと小さいものが妥当かもしれません。
今後の予定
2022年度は環境影響評価”提案書”が提出され、意見交換会が行われました。今後、環境影響評価書が公表され再度意見提出の機会がありますが、吹田市による都市計画も2023年度中に決まる予定です。
環境影響評価が進捗すると、地権者による「再開発組合」が結成され、工事は2026年に着工予定。段階的な工事を行い、完了まで10年程度が想定されています。
より良い駅前とするために意見できるのは今年です。
関連リンク
- 北千里駅前の再整備 – 吹田市ホームページ
- (仮称)北千里駅前地区第一種市街地再開発事業に係る環境影響評価について – 吹田市ホームページ
- 令和4年度第2回 吹田市環境影響評価審査会 – 吹田市ホームページ
- dios北千里
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